【「ノウアスフィアの開墾」研究シリーズ】005…資本主義経済はプロサンプションを含む形で新しい体系へとシフトする可能性
こんにちは。大広の梅田です。
今回はいよいよ、「贈与経済」と「交換経済(≒資本主義経済)」の関係性を見ていきます。
まず、「贈与経済」について復習しておきますと、「自分たちで生み出した余剰財(≒プロサンプション活動の成果物)を互いにシェアし合う経済であり、そのモチベーションは『評価』の獲得(≒承認欲求/評判欲求/自己実現欲求の充足)である」という点を押さえておきます。
※前回まとめた図を多少修正しました。prosumption090826
※尚、「贈与経済」について松岡正剛氏は、
むしろ「新たな評価経済の登場」というふうに捉えたほうがいいだろう。
(松岡正剛の千夜千冊 エリック・レイモンド『伽藍とバザール』 1999 光芒社Eric Steven Raymond : Cathedral and the Bazaar 1997以降 山形浩生 訳)
と語っていますが、上記のとおり、「評価」は「余剰財の贈与」のレベルを競った結果生じるものであり、松岡氏が指す「新たな評価経済」とはまさに「贈与経済」を違う角度から捉えたものだ(つまり結果的に同じものを指している)と考えています。
さてそのような、“資本主義経済”とはまるで異なる性質を持つ「贈与経済(新たな評価経済)」はどのように「交換経済(≒資本主義経済)」と絡んでいくのか?という点ですが、それは「霞を食って生きていけるのは仙人だけで、実際にはそんな人間はいない」という事実に注目します。
つまり、上記でリンクした図をご覧いただければ分かりますが、一人ひとりの人間の生活モチベーションにおいて「交換経済」「贈与経済」の両方が関与しています。しかも、「交換経済」が関与するモチベーションの方がより下位なので、まずこちら側の論理で経済はドライブしますし、それが近年の経済成長を支えてきたと考えて差し支えないでしょう。
ただし、それがある一定レベル飽和した段階で、各個人のモチベーションを司る経済は「贈与経済」にシフトしますし、一定レベル満たされた個々が集まった集団が登場し(且つプロサンプション活動を共有できる≒余剰財をシェアしやすいWeb環境が整っ)た近年では、「贈与経済」の論理で経済がドライブし始めています。
このような構造に基づいた実際の現象(=具体的かつ顕著に観察できる世の中の様々なプロサンプション活動)こそ、アルビン・トフラーが1980年『第三の波』で予言した点であり、2006年『富の未来』ではより具体的に実例を挙げながら語った点であり、「贈与経済(トフラーは「非金銭経済」と表現)」は実は「交換経済(同「金銭経済」)」と同等の価値があり且つその価値を金銭価値に変換できる可能性があるという主張の論拠になります。
まさに、未来学者トフラーの大ベストセラーが描いた予言と、LINUXが生み出された力学を鮮やかに描いたレイモンドの主張とが一致しているのです。
そしてその具体的な「変換手段」ですが、それは「『評判』の副作用」であるとレイモンドは繰り返し指摘しています。少し長くなりますが重要なので引用します。
オープンソース文化はお金や内的な稀少性経済に類するものは持っていないから、ハッカーたちも物質的な富とあまり似たものを追求していることはあり得ない。
ただし、オープンソース活動で人々がもっと金持ちになれる方法が一つなくはない――そしてそれは、その実際に動機に貴重なヒントを与えてくれるものではある。しばしば、ハッカー文化で人が獲得した評判は実世界でも反映されて、それが経済的に意味をもってくることがある。もっといい仕事が得られるとか、コンサルタント契約が手に入るとか、あるいは本の執筆依頼がくるとか。
でもこの種の副作用は、よくいってもまれだし、ほとんどのハッカーにとっては副次的なものでしかない。唯一の説明として説得力を持つには、多くのハッカーにはあまりに縁遠いものだ。それにハッカーたちはなんども、自分たちは金のためにやってるんじゃない、理想と愛のためにやってるんだ、と主張している。まあこれは割り引いてきくにしても。
でも、こういう経済的な副作用が処理されるやり方は検討する価値がある。
(Eric S. Raymond 著 山形浩生 YAMAGATA Hiroo 訳「ノウアスフィアの開墾」 5 ロックと土地所有権 より)
もし贈与経済が交換経済や上意下達方式と接触していたり混じり合ったりしていた場合にも、評判がそっちに持ち越されて、もっと高い地位を得る役にたつかもしれない。
(Eric S. Raymond 著 山形浩生 YAMAGATA Hiroo 訳「ノウアスフィアの開墾」 8 評判のさまざまな相貌 より)
ノウアスフィアの開墾からの収益はわかった。それはハッカーの贈与文化における仲間内の評判だ。そしてそれにともなう二次的なメリットや副作用もついてくる。
(Eric S. Raymond 著 山形浩生 YAMAGATA Hiroo 訳「ノウアスフィアの開墾」 9 所有権と評判によるインセンティブ より)
・・・ということで、「交換経済」と「贈与経済」との関係構造が見えてきました。それは「プロサンプション活動で獲得した『評価』を金銭価値に(直接的に/間接的に)変換する“各種アプローチ”が発見されれば、交換経済単独で経済をドライブさせる(純粋な資本主義経済を回す)のではなく、贈与経済をも含めた新しい形で経済をドライブさせることが可能となり、それは即ち人間のより本質的で高次な欲求を満たす経済世界の実現に相当する」という美しい構造です。ざっくりと表現し直すと、「いやいや働くのではなく(≒食うためだけの労働ではなく)モチベーションに沿った形での労働(その一部や大半、あるいは全てはプロサンプション活動)により対価を獲得できるスキーム」というようにも言えるかと思います。
今回は以上になりますが、今回の考察はこのブログで最も重要な点になると思います。今後はこの“各種アプローチ”を具体的にしていく(且つ具体的なビジネススキームの話しに入っていく)方針で書いてみようと思っています。