【「ノウアスフィアの開墾」研究シリーズ】002…オープンソースの土地争いのルールは中世から変わらない

こんにちは。大広の梅田です。

今回は具体的に、「ロックの所有論」と「ハッカーによるオープンソース・プロジェクトの所有権」との類似性についてまとめてみます。

土地、それが「実際の土地」であれ「仮想の知的空間」であれ、所有権(前者であれば土地の所有権であり、後者であれば知的空間を開墾するプロジェクトのリーダー権、ソフトウェア領域で噛み砕くと「変更したバージョンを公式に再配布する独占的な権利をコミュニティ全般から認められている」状態)を獲得するためには、3つの方法があります。

 

1. 未開の地に踏み込む。

※「ロックの所有論」

未開の地(フロンティア)には、これまで所有者のいなかった土地がある。そこでは人は、開墾(homesteading)することで所有権を獲得できる。

Eric S. Raymond 著 山形浩生 YAMAGATA Hiroo 「ノウアスフィアの開墾」 5 ロックと土地所有権 より)

※「ハッカーによるオープンソース・プロジェクトの所有権」

第一の方法はいちばん自明だろうけれど、プロジェクトを創始することだ。プロジェクトの開始以来、管理者が一人しかいなくて、その管理者が活動を続けているなら、ハッカー慣習はそのプロジェクトをだれが所有しているのかについて疑問視することすら許さない。

Eric S. Raymond 著 山形浩生 YAMAGATA Hiroo 「ノウアスフィアの開墾」 4 所有権とオープンソース より)

2. 土地を引き継ぐ。(引き継ぎ状況は閲覧可)

※「ロックの所有論」

入植済みの地域での土地移譲は、ふつうは土地所有権の移転によって行われる。これはつまり、前の所有者から証書を受け取ることだ。この理論に基づけば、所有権の連鎖という概念が重要になる。所有権の証明として理想的なのは、証書とその移転の連鎖が、その土地のそもそもの開墾時点にまでさかのぼれることだ。

Eric S. Raymond 著 山形浩生 YAMAGATA Hiroo 「ノウアスフィアの開墾」 5 ロックと土地所有権 より)

※「ハッカーによるオープンソース・プロジェクトの所有権」

プロジェクトの所有権を獲得する第二の方法は、前の所有者からそれを引き継ぐことだ(いわゆる「バトンタッチ」)。プロジェクトの所有者は開発や保守作業に必要な時間を割けなかったり割く気がなかったりするときには、有能な後継者にプロジェクトを引き継ぐ義務がある。これはこのコミュニティではよく理解されている。(中略)プロジェクトの配布パッケージの中に変更履歴を含めておいて、そこで所有者の変化を明記しておけばふつうは十分だ。

Eric S. Raymond 著 山形浩生 YAMAGATA Hiroo 「ノウアスフィアの開墾」 4 所有権とオープンソース より)

3. 所有放棄された土地の所有を宣言する。

※「ロックの所有論」

最後に、慣習法理論は土地の所有権が失われたり放棄されたりすることがあるのを認識している(たとえば所有者が相続人なしに死んだり、空き地に対する所有権の連鎖を確立するための記録が失われていたりする場合)。このようにして遺棄された土地は、占拠によって所有権の主張を行える

Eric S. Raymond 著 山形浩生 YAMAGATA Hiroo 「ノウアスフィアの開墾」 5 ロックと土地所有権 より)

※「ハッカーによるオープンソース・プロジェクトの所有権」

所有権を獲得する第三の方法は、そのソフトに作業が必要だとみてとって、しかももとの所有者が消えたか興味を失ったかしたときだ。もしこれをやるなら、所有者を見つけようとするのがきみの責任だ。それがうまくいかなければ、しかるべき関係した場所(たとえばそのアプリケーション分野専門のUsenetニュースグループなんか)でそのプロジェクトがどうも放棄されたらしくて、だから引き継ごうと思うんだけど、と宣言することになる。

Eric S. Raymond 著 山形浩生 YAMAGATA Hiroo 「ノウアスフィアの開墾」 4 所有権とオープンソース より)

 

さて、この3つの方法ですが、ポイントは、この方法自体というよりはむしろこの方法が成り立つ条件にあります。それは、

「中央集権的な強制力を発揮する権威が存在しない」

ということです。

この理論はハッカーの慣習と同じように、中央権力が弱いか存在しないような場面で有機的に発達してきた。それは千年以上もかけて、ノルウェイやドイツの部族法から発展してきたものだ。それを近代の初期に体系化して合理化したのがイギリスの政治哲学者ジョン・ロックだったので、これはよく所有物の「ロック」理論と呼ばれる。

論理的によく似た理論は、ある物件が経済的または生存上で高い価値を持っていて、しかも稀少財の配分について、中央集権的に強制するだけの力を持った単一の権威が存在しないところでは必ず生じるようだ。

Eric S. Raymond 著 山形浩生 YAMAGATA Hiroo 「ノウアスフィアの開墾」 5 ロックと土地所有権 より)

さて、次回はこのような(いわばフラットな)環境は具体的にはどういう状態なのか?(現状の社会との違いや位置づけはどのようなものか?)ということを明確にすることで、まずはモチベーションの力学を把握するための土壌を理解してみようと思います。

カテゴリー: 研究仮説の発表/議論 — 梅田 11:09 AM  コメント (985)

【「ノウアスフィアの開墾」研究シリーズ】001…論文のタイトルが示唆する内容

こんにちは。大広の梅田です。

それでは早速、『ノウアスフィアの開墾』論文を読んでいきます。

まず、論文タイトルの意味ですが、「ノウアスフィア」は哲学の専門用語で「人間の知的思考(アイデア)の集合空間」を意味します。

この論文の題名に出てくる「ノウアスフィア(noosphere)」というのはアイデア(観念)の領域であり、あらゆる可能な思考の空間だ。ハッカーの所有権慣習に暗黙に含まれているのは、ノウアスフィアの部分集合の一つであるすべてのプログラムを包含する空間での、所有権に関するロック理論なんだ。だからこの論文は「ノウアスフィアの開墾」と名付けた。

Eric S. Raymond 著 山形浩生 YAMAGATA Hiroo 「ノウアスフィアの開墾」 5 ロックと土地所有権 より)

というわけで、「広大なアイデアの未開の地がどのようなルールやモチベーションに基づいて、どのように開拓/開墾されていくか」を論じたものなので、「ノウアスフィアの開墾」というタイトルがついています。かっこいいタイトルですよね。

また、この「広大なアイデア空間」を「土地」になぞらえた意図は、内容にも密接に絡んでいます。具体的には、『社会契約論』で有名なロックの所有論と、オープンソース空間をプログラマー/ハッカーがどのように所有していくかというルールとが、極めて似ている、という点です。

まずは、その辺りについて、次回以降で具体的に見ていきます。

 

※タイトルはやっぱり【「伽藍とバザール」研究シリーズ】から【「ノウアスフィアの開墾」研究シリーズ】に変えました。(シリーズ3部作の論文ですが、内容の違いが明確ですので。)

カテゴリー: 研究仮説の発表/議論 — 梅田 4:40 PM  コメント (1,289)

【プロサンプション活動の本音に迫る】…企画告知

こんにちは。大広の梅田です。

前回から時間が経ってしまいましたが、少しずつ書いていこうと思います。

そして、時間が空いたこともあるので、本論に入る前に、ちょっとした企画(?)のお知らせをしようと思います。

題して、

「プロサンプション活動の本音に迫る」

です。

『ノウアスフィアの開墾』論文からユーザーモチベーションに関する示唆を得ていく執筆活動と同時に、実際にプロサンプション活動されている方に取材をし、どのようなモチベーションで活用しているのか?などの本音に迫る企画も、並行して進めてみたいと思います。

そこで、YouTubeやニコニコ動画に自作MADや動画を投稿している/pixivにイラストを投稿している/プログラムや翻訳作業などのオープンソースコミュニティに参加している/Wikipediaを編集している/ある領域に特化したブログを書き続けている…etc.の“プロシューマー(生産消費者)”の方々を募集します。是非、取材させてください。

ご自分の活動のモチベーションの源泉などについて、本音で語っていただければ幸いです。

ご興味のある方は、

prosumption アット daiko.co.jp(アットを@に直してください)

までご連絡ください。謝礼はお渡しできませんが、ご飯でもゆっくり食べながら取材したいと思っており、その費用は持たせていただきます。

※遠方の方はメール取材できればと考えております。

 

それでは、ご応募お待ちしております。

カテゴリー: このブログについて — 梅田 2:05 PM  コメント (873)