【「伽藍とバザール」研究シリーズ】009…コーディネーターに必要な能力

こんにちは。大広の梅田です。

今回からは、コーディネートしていくにあたっての、もう少し具体的なヒントを探っていきます。

 

■ポイント4

コーディネーターに必須な能力は、自分でアイデアを開発する能力ではなく、良いアイデアを認識できる能力であり、また開発コミュニティを活性化させるコミュニケーション能力である。

 

・・・前回までの記事で何回か、「アイデア開発や改善を、ユーザーに委ねる方が楽、というかその方が望ましい」と書いてきましたが、そのことと関連してくるポイントです。先に、参考にした箇所を(やや長くなりますが)引用しておきます。

 

ここにはいくつか教訓がある。まず、この SMTP 転送のアイデアは、ぼくがリーヌスのやりかたを意識的に真似ようとした最大の見返りだった。あるユーザがすばらしいアイデアを提供してくれた――ぼくは単に、その意義を理解すればよかっただけ。

    * いいアイデアを思いつく次善の策は、ユーザからのいいアイデアを認識することである。時にはどっちが次善かわからなかったりする。

Eric S. Raymond 著 山形浩生 YAMAGATA Hiroo 「伽藍とバザール」 6 Popclient から Fetchmail へ より)

 

コーディネーターが、とてつもないデザイン上のひらめきを自分で得る必要性は必ずしもないと思う。でも、絶対に必要なのは、その人物がほかの人たちのよいデザイン上のアイデアを認識できるということだ。

(中略)

別の才能で、ソフト開発とはふつうは関連づけられないけれど、でもバザールプロジェクトではデザイン上の才覚に匹敵するほど――あるいはそれ以上――重要なものがあると思う。バザールプロジェクトは、コーディネータやリーダの対人能力やコミュニケーション能力が優れていないとダメだ。

これは説明するまでもないだろう。開発コミュニティをつくるには、人を引きつける必要がある。自分のやっていることに興味を持たせて、各人のやっている仕事量についてみんなが満足しているように気を配る必要がある。技術的な先進性は、これを実現する役にはおおいに立つけれど、でもそれだけではぜんぜん足りない。その人が発する個性も大事だ。

リーヌスがナイスガイで、みんなかれを気に入って手伝いたくなってしまうのは、偶然ではない。ぼくがエネルギッシュで外向的で、大人数を動かすのが好きで、コメディアンの話術や本能をちょっと備えているのも偶然じゃない。バザールモデルが機能するためには、人を魅了する能力が少しくらいでもあると、きわめて役に立つのだ。

Eric S. Raymond 著 山形浩生 YAMAGATA Hiroo 「伽藍とバザール」 9 バザール方式の前提条件とは より)

 

ということで、読んでいただくと分かると思うのですが、委ねることが楽というよりは、自分以外の多数のユーザーからアイデアを募る方が、開発精度やスピードが上がる可能性があります。そして本当に上がるためには、そのアイデアの良し悪しを認識できる必要がありますし、またそもそもアイデアを募ったところで、集まらないことには始まりません。

だからこそ、コーディネーターには優れたコミュニケーション能力が必要だ、ということです。前回までのポイントに既に出てきましたが、「ユーザーとの会話を継続」することで、開発コミュニティは活性化していきます。ですので、「コミュニケーション能力」というのは「会話を継続」できるほどに、そのコミュニティ上に溢れている情報(とその根底に流れるコンテクスト)を理解し、ユーザーが「手伝いたくなってしまう」くらいに信頼される必要があります。

詰まるところ、その開発コミュニティに「自主的に」参加してくれているユーザーと同じくらいにそのコミュニティのことを好きである、ということが何よりのポイントだと思います。

 

次回は、「では何故、そもそもそのようなコーディネーターだとコミュニティが上手くいくのか?」というところ、つまり(いよいよ)モチベーション関連の話題に触れていきます。

カテゴリー: 研究仮説の発表/議論 — 梅田 12:01 PM  コメント (1,192)

【「伽藍とバザール」研究シリーズ】008…ポイントの整理(中間のまとめ)

こんにちは。大広の梅田です。

さて、今まで出てきたポイント3つを並べてみましょう。

 

■ポイント1

・まったく何もない状態から価値を生産することはできない。ただし、既存のアイデアを出発点にすることはできるし、楽(というかそれが望ましい)。

(ユーザーが興味を持っている既存の出発点が、モチベーションの観点から必要)

 

■ポイント2

ブランドのユーザーと「共同開発者としての関係性」を築くことが、商品の改善や、それにあたっての見落としの防止などにおける最も楽な(そして望ましい)アプローチである。

(「共同開発者」になってもらいモチベーションを上げる)

 

■ポイント3

ユーザーと「共同開発者」の関係性を築くためには、(自分たちの満足のために生産的活動をしている)ユーザーに頻繁に情報を提供し続けることで活性化し、そのユーザーの意見を聞いて取り入れ商品ブランドが改善されていく様子を可視化し続けることで満足してもらう必要がある。

(「信頼」「承認」「会話の継続」)

 

この3つに加えて、今まで書いてきた「コーディネート(企業の目的に沿ってプロサンプション活動を集束すること)」の概念(「コンテクストの理解」「Visionの提示」「場や情報等の提供」)も入れてまとめ直すと、

・ユーザーのコンテクストを理解し、信頼した上で「共同開発者」としてユーザーを承認する。

・ユーザーとの会話を継続し、企業活動に取り入れ、それを可視化し続ける。(可視化された結果/成果がユーザー活動の指針(Vision)となり続ける)

・それらを徹底することが、ユーザーのモチベーションを上げることにも、企業活動の成果を上げることにも、繋がる。

といった感じになるでしょうか。以上のようなことを包括して、改めて「コーディネート」と呼びたいと思います。

※「企業が、場所や情報や素材は用意するが、ユーザーが場に参加し、場を消費し、さらに付加価値を生産することではじめて完結する(つまり委ねる部分が重要となる)」ということが、“コーディネート”という語感から感じられるので。

 

さて次回(以降)ですが、もう少し具体的な「コーディネートのヒントとなるポイント」を探っていきます。

カテゴリー: 研究仮説の発表/議論 — 梅田 5:54 PM  コメント (428)

【「伽藍とバザール」研究シリーズ】007…ユーザーと「共同開発者」としての関係性を築く

こんにちは。大広の梅田です。

前回までのポイント2つは、どことなく“ユーザーに委ねて楽をする”といった側面ばかりが強調されていましたが、そうではなく今回のポイントとあわせて考えることが重要だ、ということを今回は書きます。

 

■ポイント3

ユーザーと「共同開発者」の関係性を築くためには、(自分たちの満足のために生産的活動をしている)ユーザーに頻繁に情報を提供し続けることで活性化し、そのユーザーの意見を聞いて取り入れ商品ブランドが改善されていく様子を可視化し続けることで満足してもらう必要がある。

 

・・・つまり、ユーザーを「信頼」し、企業の一員として「承認」する基本スタンスの上で、「情報提供の継続」+「意見反映の継続」=「オープンな会話による商品ブランド改善の継続」が必要だ、ということです。

この、「信頼」「承認」「会話の継続」は、企業にとってかなりの“手間”であるように思えます。「信頼」「承認」するためには企業内コンセンサスを取るのが“手間”でしょうし、「会話の継続」はそれこそ人的コストという“手間”が掛かります。

しかしながら、これを達成できたときに得られるものは、今までのマーケティング・アプローチでは中々成し得なかった隙の少ない商品ブランド設計であり、ユーザーからの熱狂的支持だと考えます。(加えて、開発コスト等の低減なども考えられると思います。いずれにせよ、どこかでまとめて「既存マーケティングとの比較考察」はやってみたいと思います。

以上のことは、ここを参考としました。

* はやめのリリース、ひんぱんなリリース。そして顧客の話をきくこと

 リーヌスの革新は、これをやったということじゃない(似たようなことは、もうながいこと Unix の世界の伝統になっていた)。それをスケールアップして、開発しているものの複雑さに見合うだけの集中した取り組みにまでもっていったということだった。

(中略)

リーヌスは、ハッカー/ユーザたちをたえず刺激して、ごほうびを与え続けたってことだ。刺激は、全体の動きの中で一員となることでエゴを満足させられるという見込みで、ごほうびは、自分たちの仕事がたえず(まさに毎日のように)進歩している様子だ。

Eric S. Raymond 著 山形浩生 YAMAGATA Hiroo 「伽藍とバザール」 4 はやめのリリース、しょっちゅうリリース より)

 

この「信頼」「承認」「会話の継続」ですが、これはそのままユーザーの「モチベーションの維持・向上」の観点からしても重要なポイントだと考えられますし、「コーディネート」(=企業の目的に沿った形でプロサンプション活動の一部を集束すること)に必要だと仮説的に考えてきた「コンテクストの理解」「Visionの提示」「ネタ等の提供」とも通ずるところがあります。

 

さて次回は、今まで出てきた3つのポイントを、ここで一旦まとめてみます。

カテゴリー: 研究仮説の発表/議論 — 梅田 4:11 PM  コメント (109)

【「伽藍とバザール」研究シリーズ】006…ユーザーと「共同開発者」としての関係性を築く

こんにちは。大広の梅田です。

引き続き、「伽藍とバザール」から、「どのような『コーディネートが有効』か?」「その中でどのように生産消費者の『モチベーション』を向上させたのか?」というポイントを抽出していきます。

 

■ポイント2

ブランドのユーザーと「共同開発者としての関係性」を築くことが、商品の改善や、それにあたっての見落としの防止などにおける最も楽な(そして望ましい)アプローチである。

 

・・・少し具体的な例え話を出しながら補足すると、「ユーザーの反応をマーケティング的に取り入れながら、次の商品開発に活かしていく」ということはどの企業も日常茶飯事に実行していることだと思いますが、ここでのポイントは、「企業活動の一環として共同する」ということです。

つまり、通常のマーケティングは、ユーザーの反応を見て商品を改善しても、改善手法が掘りきれなかったり、調査手法の落とし穴にはまり思わぬ見落としをしたりした結果、失敗に終わり、それを教訓に次のマーケティング・タームに向かう・・・といった感じだと思いますが、ユーザーを「共同開発者」として見做し、商品の開発段階から様々なことに関わってもらうことで、改善手法を掘り込んでいったり、思わぬ見落としを防いだりすることが可能である(そして、その「共同開発者」は多ければ多いほうが良い)、ということです。

(そして、その背景にはプロサンプション活動は、「ユーザーが自分の満足のためにしている自主的な生産活動」であるため、それを上手に取り込むことで、通常の(受動的なサンプルを対象とした)マーケティング調査/活動に比して圧倒的に高い正確性が望める、ということがあります。)

 

以上のことは、ここを参考としました。

* ユーザを共同開発者として扱うのは、コードの高速改良と効率よいデバッグのいちばん楽ちんな方法。

この効果の力はすごく見落としがち。はっきり言って、ぼくらフリーソフト界のほとんどだれもが、この効果がユーザの数の増加とともにどれほどすごくなるか、そしてそれがシステムの複雑さに対してどれほど有効に機能するかについて、まったく見えてなかった。リーヌスが目を開いてくれるまでは。

Eric S. Raymond 著 山形浩生 YAMAGATA Hiroo 「伽藍とバザール」 3. ユーザは大事な財産 より)

ここで注意すべきことは、企業側が「ユーザーを共同開発者と見做す」というスタンスに本当に立てるかどうか、です。「ユーザーとの共同開発!」と銘打った取り組みでも、実際は、途中で商品モニターをしてもらったくらいのケースもよくあるかと思います。これでは一般的なマーケティング調査と変わりません。

「自主的な生産活動」に期待するためには、あくまでも「共同開発者」としての関係性を築かないと、ユーザーの“モチベーション”の観点からしても成果は望めないでしょう。

 

さて、今まで抽出してきたポイント12は“楽な点”ばかり強調してきたようですが、“楽”というのは2つの意味で違います。

1つは、(前回も触れましたが)「(自分でアイデアを創出するのではなく)既存のアイデアから出発する」や「ユーザーに共同開発者になってもらう」ということは、「楽」というよりは「そうすべき」なのです。その理由については、また別途触れていきます。

もう1つは、ユーザーに委ねていく、というスタンスは一方では“楽”ですが、もう一方ではとても“手間が掛かる”ことでもあります。

次回は、その“手間”について触れていきたいと思います。

カテゴリー: 研究仮説の発表/議論 — 梅田 2:44 PM  コメント (2,496)