【「伽藍とバザール」研究シリーズ】003…「伽藍とバザール」というタイトルの意味

こんにちは。大広の梅田です。

さて今回は、この論文の不思議なタイトル「伽藍とバザール」に込められている意味を紐解いていきます。

著者のレイモンドは、「伽藍」と「バザール」という言葉を、

一番だいじなソフト(OS や、Emacs みたいな本当に大規模なツール)は伽藍のように組み立てられなきゃダメで、一人のウィザードか魔術師の小集団が、まったく孤立して慎重に組み立てあげるべきもので、完成するまでベータ版も出さないようでなくちゃダメだと思っていた。

だからリーヌス・トーヴァルズの開発スタイル(中略)にはまったく驚かされた。静かで荘厳な伽藍づくりなんかない―― Linux コミュニティはむしろ、いろんな作業やアプローチが渦を巻く、でかい騒がしいバザールに似ているみたいだった

Eric S. Raymond 著 山形浩生 YAMAGATA Hiroo 「伽藍とバザール」より)

といった文脈で用いており、ざっくりと言えば、伽藍は「局所的で静かで荘厳で統制されるイメージ」、バザールは「至るところにある自由で活発な活動で形成されるイメージ」の象徴として使っています。

もう少し具体的な意味を探るために、それぞれWikipediaを引いてみると、

伽藍方式

選ばれた開発者だけのグループ内で開発が行われ、ある程度まとまった形になるまで外部に公開しない。開発の経過は基本的に部外者には見せない。

Wikipedia「伽藍方式」より)

バザール方式

特に、インターネット上での創造活動に有効な手法で、参加者を限定しないこと、参加者の独自性を尊重すること、階層的な組織ではなく個人が中心となったルールや命令系統の少ない方法で進められるのが特徴である。Linuxの場合は、最終的な取りまとめをするリーナス・トーバルズが交通整理をする協調的なコーディネータの役目をしている。

Wikipedia「バザール方式」より)

とあります。

さて、この正反対の開発スタンスについて、「プロサンプション研究としては」次のように捉えて考察を進めていきます。

【伽藍方式】:プロサンプション(消費者の自主的な生産)活動の入る余地がなく、またクローズドに開発を進めていく方式。

【バザール方式】:オープンソースを前提とし、マスコラボレーション的にプロサンプション活動を有効に取り入れつつ開発をまとめていく方式。

・・・このように捉えることで、伽藍方式とバザール方式を比較しながら、「プロサンプション活動を有効に取り入れるためにはどのように参加者をモチベートすれば良いのか?」を考察していきます。

※補足:(書いている自分でも)混同しやすいポイントなので整理しておきますが、「マスコラボレーション」はプロサンプション活動を前提としません。また勿論、「Web2.0≠プロサンプション」であり、Web2.0という環境に(既存ビジネスを代替するパワーを持つ)プロサンプション活動はよく馴染むが故に『Web2.0は儲からない』と言われている」という現状を如何に打破するか、がこの「プロサンプション研究ブログ」が目指すところです。

 

さてタイトルの意味が“プロサンプション研究的に”掴めたところで、次回は「前シリーズの【同人シリーズ】と今回の【「伽藍とバザール」研究シリーズ】とでは、プロサンプション活動として何が類似点で何が相違点なのか?」を整理しておきます。

(キーワードは上記Wikipediaで引用した「交通整理をする協調的なコーディネータ」という概念です)

カテゴリー: プロサンプション事例紹介 — 梅田 11:28 AM  コメント (728)

【「伽藍とバザール」研究シリーズ】002…本シリーズの概要(補足)

こんにちは。大広の梅田です。

「伽藍とバザール」論文から、モチベーション仮説に繋がるようなポイントを探し出していこうかと思ったのですが、事前に整理しておいた方が良いことが幾つかありましたので、今回はそれを補足します。

 

1点目は、「伽藍とバザール」という論文/翻訳文自体のスタンスですが、文章がWeb上に全て公開されています(論文自体がオープン、というわけですね)。「伽藍とバザール」←このリンクから訳文を読むことができますし、さらに原文へのリンクも張ってあります。今後、引用の際には、(Eric S. Raymond 著 山形浩生 YAMAGATA Hiroo 訳「伽藍とバザール」より)と記すことにします。

 

2点目は、この「伽藍とバザール」という論文の内容ですが、「モチベーション仮説」のみを考察するのでは勿体無く、「プロサンプションビジネスのスキームを構築するための有用な示唆」に満ちています。したがって、「モチベーション仮説」に関連する部分を優先して考察・仮説化していきますが、その他の有用な示唆も積極的に取り上げていき、また別途まとめることにします。

 

3点目は、この【「伽藍とバザール」研究シリーズ】の執筆スタンスですが、前回「抜粋・紹介しながら一般的な仮説を立てるべく考察して最後にまとめ上げる」と書きましたが、基本的には上から順番に読んでいき、抜粋・紹介していきます。ですので、当初は「モチベーション仮説」と「その他の有用な示唆」が混ざる形になるかも知れません。ですので、抜粋する際には何に関連したポイントか明記するようにしますし、区切りの良いところで、「モチベーション仮説」関連の要素を随時まとめていきたいと思います。

 

さて次回は、この不思議な論文のタイトル「伽藍とバザール」に込められている意味を紐解いていくことで、「プロサンプション」「オープンソース」「マスコラボレーション」がどのように絡んでいるかについて、またこれから扱う【「伽藍とバザール」研究シリーズ】と今まで扱ってきた【同人シリーズ】の違いについて、整理・考察してみたいと思います。

カテゴリー: プロサンプション事例紹介 — 梅田 1:58 PM  コメント (914)

【「伽藍とバザール」研究シリーズ】001…本シリーズの概要

こんにちは。大広の梅田です。

早速ですが、前回の予告通り、プロサンプション(生産消費)活動を行うモチベーションの維持・向上に必要な要素を探るべく、コンピュータのOSである「リナックス」がオープンソースで開発される過程を研究した論文「伽藍とバザール」について触れていきたいと思います。

特に焦点を当てる箇所ですが、この論文は「リナックスを開発するにあたり、『こういうポイントを押さえた』から、物事がこのように進んで上手くいったのだ」という形式で概ね書かれていますので、この「こういうポイント」に注目していきます。

この「ポイント」は全部で10個前後あると思いますので、それらをまずは抜粋・ご紹介しながら、「リナックス」に限ったことではなく「プロサンプション活動全般」としても当てはまるかどうか(一般化できるかどうか)の考察をしていきます。

本シリーズのゴールとしては、上記のような考察をまとめ上げることで、モチベーションに関する幾つかの仮説を立てたいと考えています。

 

では、次回からはいよいよ本論に入っていきます。

カテゴリー: プロサンプション事例紹介 — 梅田 11:00 AM  コメント (822)

今後の執筆予定について

こんにちは。大広の梅田です。

「同人シリーズ」がひと区切りつきましたので、一旦、今までを整理してみたいと思います。

 

■プロサンプション活動とは

・プロサンプション=生産消費。

・消費者が自分(たち)の満足のために為した成果。

・その成果に対して金銭の授受が発生しない。

・その成果を代替できる金銭経済圏の既存ビジネスがある。

 

■研究目的

金銭の授受は発生しないが既存ビジネスを代替してしまう「プロサンプション」という事象(あるいは「生産消費者」)と、既存ビジネスはどのような関係性を結ぶべきか? (対立? 包囲? 融和? 対等?etc.

 

■ここまでの研究仮説

・「生産者」(企業)と「生産消費者」(生活者)の関係性向上ステップは、「自発/対立」⇒「(消極的)容認」⇒「(積極的)容認」⇒「公認」⇒「発展的関係」。

・自発的で活発なプロサンプション活動があることが前提。

・「自発/対立」⇒「(消極/積極的)容認」のフェーズに進むには、生産者側のリスク回避、および「生産者」「生産消費者」双方のメリットの方向性が、ある程度見えることがまず必要。(生産者の最終的なメリットは収益性の向上。生産消費者のメリットは快適な活動環境の獲得と自己満足/充足)

・「生産者」として、各種問題を含む「(消極的)容認」フェーズを抜け出すためには、プロサンプション活動の支援となるような環境整備(ルール/ガイドラインの策定と普及)をする必要。(黙認が長期化すると生産消費者の内部分裂が起こり、プロ/アマの境界が曖昧になる)

・ルール/ガイドラインは、あくまで「ユーザーが抱えている問題を解決する」ために策定。(そこがないルール/ガイドラインはユーザーの活動モチベーションを落とすか、あるいは無視される)

・ルール/ガイドラインの遂行において、膨大な事務処理が発生すると企業側の負担となり、システム自体が危うくなるので、なるべく簡素な運営が必要。

・具体的な3つのポイントは、「Web上で運営できるシステム」「ユーザーの自己申告が基本」「ユーザーが日頃、自分の作品の扱いについて悩んでいる点を整備」。

 

■今後の研究課題

・どのような要素がプロサンプション活動を行うモチベーションに寄与するのか?

 

以上がここまでの研究の進捗となります。

というわけで、次回からは「モチベーション」に注目をしていきたいと思います。具体的な研究対象としては、リナックスを予定しています。まずは「伽藍とバザール」という論文に注目してみたいです。(もちろん、他にもトピックス的に色々な話題を取り上げてみたいです)

また、同時並行的に、実際にプロサンプション活動をしている「プロシューマー」(生産消費者)への取材や本ブログの執筆依頼などの“企画”についても実現できれば、と考えております。

 

それでは、また次回からは上記方針に沿って書いていきます。

カテゴリー: このブログについて — 梅田 2:06 PM  コメント (2,499)

【同人シリーズ】011…本シリーズの中間総括

こんにちは。大広の梅田です。

同人シリーズも11回目の記事となりました。「角川グループとMADの関係と今後の可能性」「ワンフェスの仕組み」と続き、「コミケと出版業界の関係と今後の可能性」シリーズもとりあえずの内容を書き終え、いよいよ中間総括をしてみたいと思います。

その前に、「レゴ」シリーズで得た結論を復習しておきますと、

・「生産者」と「生産消費者」の関係性向上ステップは、「自発(対立)」⇒「容認」⇒「公認」⇒「発展的関係」。

・活発なプロサンプション(生産消費)活動があることが関係性向上の前提。

・「自発(対立)」⇒「容認」の段階で、生産者側のある程度のリスク回避、および「生産者」「生産消費者」双方のメリットが見えること。

・「生産消費者」は、「生産者」に熱狂的な活動を提供することで、自分たちの活動を支援してもらえる。

・「生産者」は、「生産消費者」に良好な活動環境を提供することで、「製品価値」「売上」が高まる。

つまり、

「『生産者』の事業ドメインと『生産消費者』の活動ドメインが(対「消費者」において)競合せず、シナジーを生むような構造を構築するために、積極的に『生産消費者』の活動を支援する」

ということでした。この場でもう少し分かりやすくポイントを補足しておくと、

・プロサンプション活動の環境が整った場を提供して活動を支援することで、活動の方向性をポジティブにすることが出来る。(レゴの場合は、ハッキングしてまでソースコードを知ろうとしたユーザーの暴走を止める代わりに、ソースコードを開示する場を提供した。)

・「容認」のフェーズで上記支援を明確に打ち出すことで、次のステップ「公認」へと進める。(公認するための準備期間。)

ということです。あるいは、

「単なる放置/黙認スタンスでは、「対立」や「(消極的)容認」といった問題を含むフェーズから抜け出せない。ユーザーのプロサンプション活動の「ために」何らかの情報や環境を生産者(企業側)から提供することで、はじめて「(積極的)容認」状態から「公認」へとステップを踏める。」

といった方が分かりやすいかも知れません。

 

以上のような経緯があり、この同人シリーズを書くにあたっては、次のことを念頭に置いていました。

・「自発(対立)」⇒「容認」⇒「公認」⇒「発展的関係」における「容認」⇒「公認」へステップアップする手掛かりは?(具体的にどのような支援?)

・そもそも、プロサンプション活動を行おうとするモチベーションはどのような状態?

 

この視点で、「角川グループとMADの関係」「ワンフェスの仕組み」を再度まとめ直してみると、

・プロサンプション活動の“支援”として、「独自の審査基準による認定」「当日版権システム」といった「ルール/ガイドライン」を整備しているが、個々の権利処理の膨大な事務処理が課題となっている。(また、その対価について、ワンフェスは「プロモーション効果」以上のメリットが見つかっていない。角川MADは「広告媒体として」等の付加価値を見つけようとテストを実施中。)

・モチベーションについては、「角川MADの独自審査基準」の場合、そのガイドラインに合わせて創作活動をしよう(≒ルール/ガイドラインを積極活用しよう)という機運はあまり見受けられない。「ワンフェスの当日版権システム」の場合は、そのシステムに則った創作活動が見受けられる。

といったところになります。

ここで、前者の「ユーザー支援としての環境整備(ルール/ガイドライン策定)」と後者の「ユーザーのモチベーション」は表裏一体の関係にあることに気付きます。つまり、「角川MAD」よりユーザーの創作活動に沿った、簡易な権利処理で済む「当日版権システム」の方が、ユーザーのモチベーションに寄与している(少なくともモチベーションを落としてはいない)と言えます。

 

また、「コミケと出版業界の関係と今後の可能性」を同様の視点でまとめ直してみると、

・支援としては、ほぼ黙認しているのみで、企業側からの具体的な環境整備は見受けられない。

(※各企業(各出版社/各タイトル)ごとでスタンスは異なる。一部からは積極支援の動きは存在。ただし業界全体的な取り組みはないと思われる。)

・ユーザーのモチベーションは非常に高いが、創作/活動許容範囲の判断に悩んでおり、一部には不幸にも裁判になってしまった事例も少なくない。

となります。

また「黙認スタンス」の結果として、

「(消極的)容認のフェーズが長期に渡ったため、生産消費者の「生産」と「消費」へ分裂し、アマとプロの境目が曖昧になっている。」

という問題を抱えています。

 

以上を俯瞰して、「同人シリーズ」の中間総括を書いてみます。

 

・生産側(企業)として、各種問題を含む「(消極的)容認」フェーズを抜け出すためには、プロサンプション(生産消費)活動の支援となるような環境整備(ルール/ガイドラインの策定と普及)をする必要がある。(※黙認が長期化すると生産消費者の内部分裂が起こり、プロ/アマの境界が曖昧になる)

・ルール/ガイドラインは、あくまで「ユーザーが抱えている問題を解決する」ために策定されるべき。(※そこがないルール/ガイドラインはユーザーの活動モチベーションを落とすか、あるいは無視される)

・ルール/ガイドラインの遂行において、膨大な事務処理が発生すると企業側の負担となり、システム自体が危うくなるので、なるべく簡素に運営できる必要がある。

 

以上から、具体的なルール/ガイドラインの策定アプローチとして、

Web上で運営できるシステムにする。

・ユーザーの自己申告を基本とする。

・ユーザーが日頃、自分の作品の扱いについて悩んでいる点を整備する。

3点がポイントなのではないでしょうか?具体的には、「企業側が書類を審査する」という性質のものではなく、「一定のルール/ガイドラインの下、Web上で自動構築される作品データベースを、企業側とユーザーが一緒になってつくる」という性質のものだと考えます。

つまりは、一言で言ってしまえば、「クリエイティブ・コモンズ」的な考えを支持するものです。ただし、ポイントとして、特に3点目が重要だと考えますので、各ジャンル毎にコモンズが立つのは良い傾向だと考えています。それはつまり、各ジャンル毎のユーザーの活動に合わせて制定している、ということを表していると思いますので。

したがって、現状、「クリエイティブ・コモンズ」「ピアプロのライセンス条件」「ニコニ・コモンズ」「pixivコモンズ」と、ルール/ガイドラインが乱立していますが、それぞれユーザーに使ってもらえて場を活性化し、更なるクリエイティブを生むシステムに進化していけば良いのではないでしょうか。

(コモンズ間の相互乗り入れはその先の課題。)

 

以上を「同人シリーズ」の中間総括としたいと思います。ただし、今回、掘り切れなかったポイントに、「どのような要素がプロサンプション活動(同人創作活動)を行うモチベーションに寄与するのか?」があります。ここは、「同人シリーズ」に対して、コメント、トラックバック、はてなブックマークでのコメントなどでいただいた各種ご意見を考える上で最優先課題だと認識しています。

つまりは、「創作モチベーションを落とさず、むしろ上げるようなルール/ガイドラインの整備」であり、上記の中間総括から議論を深めていくことに他なりません。

 

次回は、今後のこのブログの執筆予定を書いてみます。お楽しみに!

カテゴリー: 研究仮説の発表/議論 — 梅田 11:02 AM  コメント (1,165)