【まとめ】その2…広告エージェンシーからビジネスエージェンシーへ。
こんにちは。大広の梅田です。
「プロサンプション・ビジネスのポイント」「その領域へ広告エージェンシーが入るポイント」を探る本ブログもひとまず大詰めに入ってきました。また、ブログを書き出した08年7月はまだそこまで普及していなかった「ソーシャルメディア」という言葉やそれを象徴するメディア「Twitter」が定着し始め、尚盛り上がりを見せています。「(生活者の自発的な発信行動が結びついて生成される)ソーシャルメディアを広告エージェンシーのビジネスとどう結び付けていくか?」という課題が日々議論されている昨今ですが、その議論における1つの参考資料となれば幸いです。
さて前回、「企業ビジネスとソーシャルメディアとを結びつける際、基本的には企業自身が直接ソーシャルメディアに関わる(企業自身がソーシャルメディア内で発信する/企業がソーシャルメディア運営者と協業する)必要がある」という趣旨を書きました。この視点が今後の広告エージェンシーのビジネスモデルに大きく影響すると考えます。
従来、広告エージェンシーは「メディア・エージェンシー」でした。マスメディアに集まる大衆の注目を広告媒体として価値化すべく、枠を設定したりその他サービスを付けたりして、広告主にセールスするビジネスモデルです。そしてメディアを売ることだけではなく「その他サービス(ex.)クリエイティブ/プロモーション/戦略コンサルテーション…etc.)」が発達を遂げて現在の「広告エージェンシー」つまり「広告に関するあらゆる業務をエージェントとして遂行する企業」が成り立っています。
しかし、ソーシャルメディアにおいては、そのビジネスモデルが簡単には成立しません。
まず「メディアに集まる注目を広告媒体として価値化する」ことから考えてみます。マスメディアは巨大なパワーがありました。時代の空気を鋭く読んだTVCMで人々を動かす、そんなビジネスとも言えましたが、それをそのままソーシャルメディアには転用できません。なぜならマスメディアに比してソーシャルメディア(それはほとんどの場合デジタルメディアでもある)の、枠はマスメディアよりも細かく、ターゲティングは精緻さが要求され、PDSサイクルは早く回り、入れる広告クリエイティブ・コンテンツ制作物は膨大になり、読むべき空気(文脈)は多様で難しい…要は「(メディアセールス及びそれに付随する)タスクの膨大さに比してボリュームが小さい」ということになります。それが「ビジネスモデルをそのまま転用するのは難しい」理由の1つ目です。
次に、というかこちらの方がより本質的な理由になり、繰り返しにもなりますが「企業自身が直接ソーシャルメディアに関わる必要がある」ということです。つまり、(メディアセールス(及びそれに付随する膨大なタスク)以外)エージェントとして機能しづらいことが根本にあります。ソーシャルメディアにおいて企業自身が(企業活動の一環として)情報発信やユーザーとの交流活動を始めると、そこに(従来の)広告エージェンシーが介在する余地はどんどん狭くなっていきます。
以上の2つの理由から、ソーシャルメディアにおいては従来の広告エージェンシーのビジネスモデルが転用しづらいことが分かると思います。では、どのようなアプローチならば企業のソーシャルメディア・ビジネスに対して(ビジネス・エージェンシーとして)貢献することができるでしょうか。
・・・「企業が直接ソーシャルメディアに関わる」アプローチは大きく2つあり、「企業自身がソーシャルメディア内で発信する」と「企業がソーシャルメディア運営者と協業する」です。ここからはこの2つのアプローチに対して、それぞれどのように関与できるかを考察してみます。
1つ目の「企業自身がソーシャルメディア内で発信する」アプローチですが、企業のリアルタイムで生の声をエージェントすることは(前回も述べましたが)困難です(しかも「発信」の延長線上には「受信」「交流」がありますが、そのフェーズまでいくと尚更です)。そこで、「企業におけるソーシャルメディア・プロジェクトの一員となる」というエージェンシー・アプローチが考えられます。平たく言うと「企業内の事業に資本や人を出して参画する」ということです。いったん組織に参画してしまえば、その事業に従事するものとして、ソーシャルメディア上で直接活動することができます。なお現在の広告エージェンシーでも一部、クライアントに出向して関係性を強めたりクライアントの事業を深く理解したりすることで広告ビジネスに活かす取り組みはありますが、まだ本流ではありません。今後は必要性が増してくると思われますが、これだけの考察では必要性に対する納得感が薄いのではないでしょうか? そこで次のアプローチに移ります。
2つ目に「企業がソーシャルメディア運営者と協業する」アプローチですが、このアプローチは、より具体的には「ソーシャルメディアを活用した新しい企業サービスをユーザーに提供する」と言い換えられます。そこで、「ソーシャルメディアと共同でサービスを開発し、クライアントに(カスタマイズを含めて)セールスをする」というエージェンシー・アプローチが考えられます。こちらの方が、1つ目の「企業内の事業に資本や人を出して参画する」より想像しやすいのではないでしょうか。従来の広告エージェンシーは媒体社と一緒になって(主にメディアセールスの観点で)媒体価値の開発をしてきた経緯があり、ビジネスモデルもそのように(つまりメディアのセールス価格にエージェンシーの利益分が含まれる形)なっています。その価値開発する対象が「広告メディア」から「サービス」になっただけで、ビジネススキームとしては従来の形に近いです。
ここでさらに考察しておきたいポイントは「収益モデル」です。いままでは「コミッション」という「メディアのセールス価格にエージェンシーの利益分が含まれる形」でした。つまり、売った分だけすぐに分かりやすく利益が出るモデルです。しかし、売る対象が「広告メディア」から「サービス」になるとコミッションだけでは難しくなってきます。なぜならサービスは「開発に時間が掛かり、セールスにもスキルが必要」であり、また「売っておしまい」ではなく「永続的に運営されるもの」だからです。しかしその分、「サービス運営による成果/利益」が上がってきます。したがって、収益モデルも「サービスを納品しておしまいのコミッション」だけではなく、「サービス開発・運営に関するフィー(人日やサーバー代などから算出)」や「サービスへの貢献レベルによる成果報酬」や「サービス運営への関与レベルに応じた利益のレベニューシェア」など、(さらにそれらの複合型についても)多様に考える必要があります。
また、この「収益モデル」を選択する際に、1つ目の「企業内の事業に資本や人を出して参画する」という視点も付加して検討する必要があります。コミッションやフィーなら問題ありませんが、成果報酬やレベニューシェアとなると、いったん納品した企業の事業サービスの成果/利益に応じたビジネスモデルを採るには、その運営にも関わる必要性が高まってくると考えられます。場合によっては、資本や人を出したり事業会社を興したりすべきケースも出てくるでしょう。
以上、まとめます。
従来のマスメディアに加え、新たにソーシャルメディアが存在感をどんどん増している環境下、ソーシャルメディアを新たな企業活動のプラットフォームとして、(コミュニケーションを含んだ)自社ビジネスを直接展開する事例がますます増えてくる(=事業予算がマスメディアからソーシャルメディアへシフトする)ことが予想されます。
そのような情勢に対応すべく、広告エージェンシーは、従来のビジネスモデル(マスメディアセールスと制作等のサービス)で培った様々なステークホルダー(ex.) クライアント/メディア/プロダクション/インフルエンサー/生活者…etc.)との関係性や関連ナレッジを活用し、組み合わせることで(且つソーシャルメディアも積極的に活用するスタンスで)新たな事業を興す必要性が高まっている、と考えます。
そのような考え方の元、多様な試行錯誤をし、(広告エージェンシー自身の)事業ポートフォリオを描いていかないと、「事業予算におけるマスメディアからソーシャルメディアへのシフト」「事業予算における広告販促費から他予算へのシフト」等には対応できないのではないでしょうか。
そして、具体的に事業開発する際には、(今までにこのブログの各記事で書いてきたような)「プロサンプション活動と現状の事業活動との対立・ねじれ構造を解消できる視点の発見」「既存ルールを改革していくネゴシエーションの実行」「発散的プロサンプション活動に生産的価値を付与するコーディネート能力」「ユーザーモチベーションを理解した上での施策開発」「プロサンプション的な生産価値を事業の適切なパートに据えた戦略開発」「開発した事業の一員として持つべき新たな収益モデルの獲得」に加え、ステークホルダーを結びつけて事業開発・運営を推進できる「プロデュース能力」を合わせ持った個人・組織が求められるでしょう。
(以上の各条件それぞれにおいて、多少の要点をこのブログの研究記事が提供できていれば幸いです)
・・・以上、長期に渡って書いてきました「プロサンプション研究」も1つの提言をまとめることはできましたので、このブログもこの記事を以って完了となります。最後に、一見困難に見える上記のような条件も、広告エージェンシーだけでなく、一般的な企業についても当てはまる課題である、ということを思い出せば、各企業が協力してこの(産業革命以来の)変革期に楽しく向き合うことができるのではないでしょうか?(広告エージェンシーはクライアントビジネスについて一緒に悩める存在であるべきでしたし、これからもそうであることは変わりないと思います)
それでは、今まで読んでくださった方々、ありがとうございました。今度は事業開発の方でお会いいたしましょう。